『世田谷233』の作家さんを不定期でご紹介するコーナーです
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【 !box pick up / No.006 】
■name : 我楽多倶楽部 
■box no : A-11 & 19
 
■URL :
http://www.junk-club.com/
今回のボックス・ピックアップは球体間接人形のシエタ君の展示と便箋、スタンプ、切手等、オリジナル雑貨の販売を展開してくださっている『我楽多倶楽部』のTOKOさんです。
TOKOさんは11月にroomで初の個展を開催予定です。
− 『我楽多倶楽部』の歴史 −
中根
:TOKOさんは『我楽多倶楽部(がらくたくらぶ)=JUNK CLUB』という名前で作品を展開していますが、僕も“JUNK”っていう言葉が好きなんですよ。『JUNK CULTURE』っていう個人サイトもやっているぐらいで。何かいろいろごちゃごちゃしている感じを想像させるところがいいかなと思って。同じ“JUNK”でも、いろんなイメージがあると思うんだけど、TOKOさんの“JUNK”っていうのはどういう意味なんですか?

TOKO:結構似ていますよ。ごちゃごちゃした子供のおもちゃっぽいイメージもあるし、骨董屋さんのような意味合いもあります。どちらかというと、他人から見たらつまらないものでも自分からみたら宝物、というニュアンスが強いかも。私の作品もそうだと思うんです。漢字の“我楽多”というのは、明治時代に発行された同人誌の名前『我楽多文庫』(尾崎紅葉ら硯友社の人々によって作られた日本最初の同人誌)を見たときに、字面がかわいいなと思ってつけました。勢いで名づけたんですけど(笑)10年経った今でも気にいっています。

中根:そもそもモノ作りを始めたのはいつ頃なの?

TOKO:物心ついたころから何かを作っていましたが、雑貨を始めにつくったのは…高校生のときに一度自分用の便箋を印刷屋さんに出しました。『我楽多倶楽部』という名前にして活動を始めたのは大学に入ってからです。主に野生動物をモチーフとした便箋を、通し番号をつけて160番まで作りました。でも、その頃からEメールが普及し始めて、手紙という手段がだんだん使われなくなってきたんです。で、一度便箋作りをやめて、何を作ろうかいろいろ悩んで人形を作ったり、立体の方に手を出した時期もあったんですけど、やっぱり絵を描いたり点画を描いたりするのが好きだったので、便箋と封筒に戻ってきました。そこからもっといろいろ使えるものを作りたいなと思って、雑貨の種類を広げるようになりました。

中根:大学って確か薬学部なんだよね。いわゆる雑貨系のモノ作りとは全然違う世界だと思うんだけど、そうやっていろんなフィールドでそれぞれちゃんと活動を続けているのってすごいよね。

TOKO:中学・高校と美術部だったんですよ。絵を描くのが大好きだったので美術やデザインの方向で進学することも考えましたが、その道で食べていくのに自信がなかったので、理系の方で仕事をして、作品製作は趣味として続けていくことにしました。


中根:作品的にはメモ帳に便箋、切手やスタンプといった、どちらかというとアナログを感じさせるものが多いんだけど、デジタルなものよりもアナログなものが好きなのかな?

TOKO:デジタルは便利なので最大限活用していますけど、アナログの存在感や質感が愛しくてたまりません。例えば、画集や写真集を作るんだったらCDやDVDよりも紙の冊子がいいですね。実際に手にとって、開いてみて、紙の質感やインクのカスレまで見て欲しい。それが高じて、シルクスクリーンなどの手刷りにも手を出し始めています。

中根:モチーフとされているのは、恐竜や化学実験に使うような器具のような、男の子っぽいものが多いよね。でも繊細な線で表現されているから中性的な雰囲気があって、そういうところも人気の秘密だと思うんだけれど。

TOKO:ちょっと理科っぽい感じが好きなんですよね。父がかつて理科少年だったみたいで、その影響を受けたんだと思います。だから、他にも鉱石ラジオとか天体望遠鏡とか寫眞機とか、昔の少年が好きだったであろうものが好きなんでしょうね。絵柄は銅版画の図鑑の雰囲気をペン画で表現しています。モチーフも雰囲気もノスタルジックなものを目指しているので、そういうところに共感してもらえると嬉しいです。


− ネット上の倶楽部活動 −
中根
:『我楽多倶楽部』のホームページ(以下、HP)も最近はコンテンツが充実してきたけれど、立ち上げたのはいつ頃なの?

TOKO:HPを立ち上げたのは1998年ぐらいです。その頃の活動は同人誌の即売会への参加がメインで、ある程度続けて出店して固定のお客さんが来て下さるまでになりました。でも参加しなくなると、それっきり会えなくなっちゃう。サイトを始めてからは、そういう場合でも掲示板やメールでやり取りができるのでつながりが深く長くなりました。ただ、一時期HP上だけで活動していたこともあったんですけど、ネットはネットでちゃんと更新しないと見てもらえない部分もあるので難しいですよね。結局、ちゃんと続けていないと見てもらえないというのはリアルもネットも同じなのかなと。

中根:ネット上での作品発表って、やっぱり更新頻度は重要だよね。仕事と作品製作って二つに分けて活動する場合、仕事がめちゃくちゃ忙しくなったりすると、バランスをとるのが難しいじゃない。例えば、そういうときにネット上で公開している日記でとりあえず作品の構想や妄想を発表して、バランスを取るっていうようなこともありかもね。僕はやっぱりリアルの場というのを大事にしたいと思っているけど、ネットも使い方によるよね。

TOKO:私も特にここ2年ぐらいで、リアルの方が楽しいと思うようになったんですが、ネットもきっかけ作りとしては大事だし、いろんなリンクでつながったりするメリットもありますから、やっぱり使い方なんでしょうね。

中根:HPでは作品発表や通販だけじゃなくて、製作過程を結構見せているよね。233で展開してくれている球体間接人形のシエタ君のボックスもプロセスの詳細まで載っていて面白い。そういうのは意図的に見せているの?

TOKO:はい。自分が他の人のHPを見た時に、やっぱり製作過程が載っていると面白いと思ってみちゃいますね。あと、完成品だけを載せていると、作品が出来上がるまでずっと更新ができないので、ちゃんと更新するためっていうのも正直あります(笑)。

中根:僕もHPをいろいろやっているので、それすごくよくわかる(笑)。


(TOKOさんのプロジェクト『黄昏カメラ』ブログより)


− 妄想の行方 −
中根
:例えば、ソ連のアンドレイ・タルコフスキーっていう映画監督がいて、僕がすごく好きな人なんだけど、彼が何かのインタビューで、自分の頭の中にはすでに映像が出来上がっているから、実際に撮影をするプロセスは面白くないって話していたんだよ。でも、雑貨系のモノ作りってプロセスも楽しいんじゃないかと思うんだけど、その辺はどう?

TOKO:一つのものをじっくり作り上げるのは、そのプロセスも楽しいです。でも、販売目的で大量生産するのは結構辛いです。単純作業の繰り返しですからね。最近流行の、スローライフで雑貨作りみたいな優雅なものじゃなくて、どちらかというと内職っぽいんですよ(笑)。実際、ご飯を食べる間も惜しんで作業しています(笑)。
絵を描いている時や同じ方向性の人といろんな話をしている時なんかは、本当にクリエイティブで楽しいですね。だけど、逆にそれ以外の作業は出来れば人を雇いたいくらいです(笑)。企画を考えたときは楽しくても、実際作業を始めると「何でこんなの作ろうと思っちゃったんだろう」って後悔するときもあります(笑)。

中根:企画しているときが一番楽しいっていうのはあるかもね(笑)。ちなみに、シエタ君はこれからどうなるの?

TOKO:シエタ君は、さらに家具を作りたいと思っています。一応学校の宿舎という設定なので、宿舎に机がないのはおかしいので。家具を一通り作ったら友達も作ってあげたいですね。部屋のバージョンも中庭っぽくしたり、窓の向こうに景色が見えたり、バリエーションを増やしたいです。合わせ鏡もやりたいですね。人形が一体しかいないのにいっぱいいるように見えるんで、それで楽器を持たせるとオーケストラに見えるかなとか。とにかく妄想だけはいっぱい膨らんでいます(笑)。

中根:“倶楽部”っていう名前がついているけど、今後はもっと部活っぽく見せたり、実際に会員制にしたり、そういう構想はあるの?HPには「賄い担当部員」がいるし(笑)、部員募集と書いてあるけど。

TOKO:「我楽多倶楽部は放課後の創作クラブで、5人の部員がいる」という架空の設定はあります。部長はシエタ君です(笑)。実際には私が一人で創作活動をしていて、いい人がいれば倶楽部として一緒に活動していきたいんですけど、よっぽど合う相手でないと難しいかなと思っています。

中根
:誰かと一緒にモノ作りをするのは新しい発見や飛躍もある半面、難しい面もあるよね。もちろん、一人で続けるのは、それはそれで大変だし、それで10年も続けてきたのはすごいと思う。僕自身は本当に趣味の範囲で写真を撮ったり、音楽を作ったりする程度なんだけど、作品を見た人や買ってくれた人がすごく喜んでくれた時に、それとまったく等価で、もしくはそれ以上にこっちもやる気とか元気をもらえるよね。そういう経験がまた続けていく原動力になるんだろうね。

TOKO:本当にそうですね。すごく嬉しいですよね。創作そのものは孤独な作業だけど、お披露目する場があったり、相手がいたりするのはすごく励みになります。ただ、周りに振り回されずに自分のペースでやることも大事だと思うんです。時には息抜きも必要だし、場合によっては開店休業や方向転換もあってもいいかなって。私もそういう時期があったし、だからこそ続いていると思うんです。

中根:コンテンツの内容ももちろん大事だけれど、やっぱり続けることでいろんな人と出会えたり、新しいことが生まれたりって言うのは、233をやっていても感じることだね。とりあえず個展は10年の集大成ってことだけどどういう風になるのかな?

TOKO:この10年間で、気まぐれにいろんな寄り道をしながら活動してきたんですが、それをできるだけ詰め込もうと思っています。展示は便箋の原画とか、寫眞とか、出版した本とか、陶器の鉢とか。それから昔つくったレターセットや雑貨の蔵出しや新作雑貨の販売をします。雰囲気は、『我楽多倶楽部』の名前どおりにごちゃごちゃした駄菓子屋さんみたいな懐かしい雰囲気にしたいです。

中根:個展楽しみにしています。今日はどうもありがとうございました。

我楽多倶楽部 個展情報
■『図画工作クロニカ』 − 我楽多倶楽部の拾年 −
〜 十年目を迎えた我楽多倶楽部の、十日間の雑貨舗。
■開催日:11月3日(金)〜11月12日(日)

<<< 編集後記 >>>
以前、モノクロ現像キットを使った現像イベントを提案してくれたTOKOさん、最近はグループで写真展を開催される等、いろいろとフィールドを広げていらっしゃいます。きっと、TOKOさんの頭の中ではさらにいろんな妄想が広がっているのでしょう。TOKOさんだけでなく、233に関わってくださるみなさんの妄想を実現すべく、さらにがんばらねば、と思いました。個展にはぜひいらしてください。
(文・編集:中根、撮影協力:よっし〜)